歴史と伝統の上に立った
「共鳴の場」から世界に雄飛を!

医学研究科委員長 柚﨑通介

学問の目的は、その成果を最終的には人類の幸福と発展に資することにあります。しかし、福澤諭吉先生の「実学の精神」は、実用的な科学技術のみに力点を置く言葉ではありません。実際に、小泉信三第七代慶應義塾長は「すぐに役立つことは、すぐに役に立たなくなる」との有名な言葉を残されています。では、長く役立つ研究、そして革新的な研究はいったいどうすれば生み出すことができるのでしょうか?

まず、前提となることは「巨人の肩」に立つことです。ノーベル賞受賞の対象となったどんなに画期的な成果も全くの無からは生じていません。まずは先人が積み上げてきた学問と知識を吸収してその肩に立つことによって初めてより遠くが見渡せるようになります。この中には語学も含まれます。

その上で重要なことは、「共鳴の場」に身をおくことです。さまざまな分野でそれぞれ深く研究されてきた知見が、全く関係のなかった他の分野の研究の発展につながってくることによって、画期的な発見が導かれる例が数多く知られています。また、他分野でのアプローチ法や考え方が一見関係のない分野に活かされてくる例もよく知られています。優れた研究者・教育者は偶発的に生まれるのではなく、同じ環境から育っていく人が多いことも知られています。つまり、学問領域を越えて同僚・研究室や医局の先輩と、切磋琢磨し連携していくことで共鳴現象を引き起こすための場が存在することが極めて重要です。

そして、忘れてはいけないことは、無邪気さと好奇心であろうと思います。私たちは、真理の大海を前にして、浜辺で貝を拾って遊んでいる子供に過ぎません。役に立つ研究を目指しつつも、愚直に貝の不思議さを探求していく子供でありたいと思います。

慶應義塾大学大学院医学研究科の最大の強みは、既存の知識を伝授するのみではなく、歴史と伝統を背景として、基礎医学・臨床医学・社会医学の垣根を越え、そして世代や経験の壁を越えた「共鳴の場」を提供することができることにあります。

医学研究には医学部出身者が必須です。現在も博士課程の約半数は慶應義塾大学医学部です。同時に、修士課程のみでなく博士課程にも他大学の医学部やさまざまなバックグラウンドをもった他学部出身者が数多く入学され、日夜研究に打ち込んでいます。この場で切磋琢磨して学び、そして将来にそれぞれの分野で世界に雄飛していく新人の参加を心よりお待ちしています。

医学研究科委員長
柚﨑 通介
Michisuke Yuzaki

慶應義塾大学大学院医学研究科委員長、医学部生理学教授、医学博士。専門は神経生理学。1985年自治医科大学医学部卒業。1993年学位取得後、Human Frontier Science Programにより米国ロッシュ・分子生物学研究所へ留学。1995年米国セントジュード小児研究病院・助教授、2002年同・准教授を経て2003年より現職。代表的受賞として2005年北里賞、2012年時実利彦記念賞、2012年文部科学大臣表彰。学外では、日本神経科学学会会長、日本脳科学関連学会評議員、日本生理学会評議員、日本医療研究開発機構プログラムスーパーバイザー等を務めている。