Nature Genetics.
2023, volume 615 ; 127–133 (2023)doi:10.1038
Sakashita A, Kitano T, Ishizu H, Guo YJ, Masuda H, Ariura M, Murano K, Siomi H.
転移因子の一種である内在性レトロウイルス (Endogenous retrovirus: ERV)は、生物進化の過程で宿主ゲノムに組み込まれた外来性レトロウイルス感染の痕跡であり、転移を繰り返すことでゲノム変異を発生させる内在性変異原である。ERVは体細胞では抑制されているが、受精後の初期発生過程では多様なERVの一過的高発現が観察される。マウスERVである MERVL は全能性を有する 2 細胞期胚に特異的に高発現するため、全能性への関与が示唆されて来たが、その機能的意義は不明であった。MERVL はゲノム中に1000コピー程度存在するが、私達は独自に開発した多コピー遺伝子解析技術を用いることで、初期胚における MERVL の発現抑制が着床前胚の発生異常を引き起こすことを明らかにした。これは、哺乳類初期胚発生に ERV の発現が必須であることを示した初の報告である。
(分子生物学教室 塩見春彦 61相当)
Cell Rep Med.
2023 May 16;4(5):101020. doi: 10.1016/j.xcrm.2023.101020. Epub 2023 Apr 19.
Tsuyoshi Eiro, Tomoyuki Miyazaki, Mai Hatano, Waki Nakajima, Tetsu Arisawa, Yuuki Takada, Kimito Kimura, Akane Sano, Kotaro Nakano, Takahiro Mihara, Yutaro Takayama, Naoki Ikegaya, Masaki Iwasaki, Akitoyo Hishimoto, Yoshihiro Noda, Takahiro Miyazaki, Hiroyuki Uchida, Hideaki Tani, Nobuhiro Nagai, Teruki Koizumi, Shinichiro Nakajima, Masaru Mimura, Nozomu Matsuda, Kazuaki Kanai, Kazuhiro Takahashi, Hiroshi Ito, Yoji Hirano, Yuichi Kimura, Riki Matsumoto, Akio Ikeda, Takuya Takahashi
横浜市立大学大学院医学研究科 生理学 高橋琢哉教授らの研究グループは、脳の機能を担う中核分子である興奮性グルタミン酸AMPA受容体をヒト生体脳で可視化・定量化できる世界初の技術となるPET用のトレーサー([11C]K-2, Miyazaki et al. Nature Medicine 2020, 同グループが開発)を用いて、AMPA受容体のダイナミクスが、てんかん患者の脳機能を調節することを解明しました。AMPA受容体のシナプスへの移行や除去は興奮性グルタミン酸シナプスにおける可塑性の分子メカニズムとして知られています。本研究ではHebbian型可塑性によるAMPA受容体のシナプスへの集積がてんかん異常脳波を作り出す一方で、逆にてんかん脳の興奮性上昇に伴う恒常的(ホメオスタシス)型可塑性によるAMPA受容体のシナプスからの除去が正常な機能を担うシナプスで起きていることを見出しました。以上より、二つの全く異なるAMPA受容体の動態がてんかん患者の脳で同時に起きていることが明らかになり、てんかん発生の生物学的なメカニズムの解明に近づくことができました。
(横浜市立大学大学院医学研究科 生理学 高橋琢哉 74回)
J Am Coll Cardiol.
2023 May 9;81(18):1797-1806. doi: 10.1016/j.jacc.2023.03.383. PMID: 37137590.
Sawano M, Lu Y, Caraballo C, Mahajan S, Dreyer R, Lichtman JH, D'Onofrio G, Spatz E, Khera R, Onuma O, Murugiah K, Spertus JA, Krumholz HM.
若年女性が心筋梗塞を起こすことは同年男性や高齢者に比べて稀です。しかしながら、一度心筋梗塞を経験すると、若年女性は同年男性と比べて入院時の死亡率が2〜3倍高く、退院後も再入院する確率が高いと報告されています。本研究では、若年心筋梗塞患者の退院後1年間における再入院の原因と発症時期について、性差を明らかにすることを目的としました。VIRGO(乙女座の意)レジストリーは、全米103施設で若年心筋梗塞患者のみを対象にした多施設前向きコホート研究であり、留学先であるYale大学COREのHarlan Krumholz教授が主導した観察研究です。研究では、2,979人の患者を対象に、30以上の背景因子を考慮しました。その結果、冠動脈に関連する再入院と非心臓疾患による再入院において、性差が明らかとなり、特に非心臓疾患による再入院において最も大きな性差を認めました。この貴重な報告により、性差を考慮した治療やフォローアップの必要性が訴えられ、大変光栄に思っております。
(循環器内科 澤野充明 87回)