Nature.
2021; 592(7852): 99-104. doi: 10.1038/s41586-021-03247-2.
Sugimoto S, Kobayashi E, Fujii M, Ohta Y, Arai K, Matano M, Ishikawa K, Miyamoto K, Toshimitsu K, Takahashi S, Nanki K, Hakamata Y, Kanai T, Sato T.
小腸の大量切除により発症する短腸症候群の重症例に対する唯一の根本的治療である小腸移植は、他の臓器と比して強い拒絶反応やドナー不足などの問題により、ごく少数の実施にとどまっています。再生医療にも期待が寄せられるものの、消化吸収・蠕動などの機能や上皮・間質・リンパ血管系・神経・筋層などの複雑な構造をもつ小腸全体の作製は不可能でした。今回、大腸と小腸の粘膜下層以下の類似性に着目し、大腸の上皮を剥がし、小腸由来のオルガノイドで置換する小腸化大腸技術を開発しました。その成熟には流れが重要という発見を生かし小腸化大腸を短腸症候群治療に用いる概念実証にラットで成功しました。ヒトのサイズの腸管にも応用しうる、既にある自己の臓器を必要な別の臓器に作り変える本技術は、再生医療による拒絶反応のない臓器移植の実現を一歩前進させるものとなります。また、様々な小腸疾患の病態理解につながる研究手法としても期待されます。
Immunity.
2021 Mar 9;54(3):514-525.e6. doi: 10.1016/j.immuni.2021.02.015.
Mikami Y, Philips RL, Sciumè G, Petermann F, Meylan F, Nagashima H, Yao C, Davis FP, Brooks SR, Sun HW, Takahashi H, Poholek AC, Shih HY, Afzali B, Muljo SA, Hafner M, Kanno Y, O'Shea JJ.
腸管免疫は、本来、病原性細菌やウイルスなどの感染症やがん細胞にたいする防御機構として機能していますが、過剰な免疫応答は炎症性腸疾患(IBD)を引き起こすなど二面性を有しています。免疫細胞の中でも、比較的近年同定されたインターロイキン(IL)-17を高産生するヘルパーT細胞(Th17細胞)は、体内では特に腸管内に多く存在しますが、Th17細胞は腸炎の責任細胞であるという報告と、むしろ腸炎に抑制的に働くという報告があり、その機能はこれまで十分に理解されておりませんでした。
本研究では、まず、1細胞遺伝子発現解析(シングルセルRNAシーケンス)法を用いて、腸管のTh17細胞を検討したところ、従来「Th17細胞」と一括りに捕らえられていたものが、腸炎を惹起する細胞集団、抑制する細胞集団など多様な集団の集合体であり、そのバランスをとる因子として2種類のマイクロRNA(miR-221/222)を新規に同定しました。これらの知見が、今後、IBDや大腸がんなどの病態解明や新規治療法の開発に繋がるものとして期待されます。
Lancet Psychiatry.
2021 May;8(5):387-404. doi: 10.1016/S2215-0366(21)00039-0.
Kishimoto T, Hagi K, Kurokawa S, Kane JM, Correll CU.
統合失調症は慢性再発性の疾患で、幻覚、妄想等の陽性症状、感情鈍麻や意欲低下等の陰性症状を特徴とします。急性期には陽性症状が顕在化しますが、多くの場合治療によって収束します。一方、再発を繰り返すうちに陰性症状が強くなり社会機能が低下するため、再発予防が重要です。再発の最大の危険因子は抗精神病薬の中断です。抗精神病薬の継続が必要ですが、服薬アドヒアランスが保たれない患者も多いです。2~12週間に1度の注射で毎日の内服が不要になる持効性抗精神病薬注射剤(LAI)は有用な治療選択肢だと考えられていますが、無作為化比較試験(RCT)では入院や再発予防効果において経口薬との有意差が示されないこともあり、その使用については議論がまとまっていませんでした。本論文は統合失調症の維持期治療におけるLAIと経口薬とを比較した大規模メタ解析です。解析はRCTのみならず、コホート試験、Pre-post試験(LAI導入前後で効果を検証する)を対象とし、計137試験、397319名分の患者データが解析に組み入れられました。その結果、3つの試験デザイン全てにおいて、LAI群は経口薬群に比して入院や再発が少なく、ほぼ全ての副作用で両群に有意差がありませんでした。この結果は、LAIの使用を積極的には推奨していなかった世界の多くのガイドラインにも影響を与えると思われます。