組織幹細胞は、抽出した単一の幹細胞が移植動物や培養皿の中で長期間自己再生することで実証されてきた。しかし、元々バラバラである血液細胞とは異なり、上皮細胞は単離すると殆ど死んでしまう。最近、組織を壊さずに遺伝学的にマークをつけた細胞の子孫細胞の産生を観察する、“細胞系譜解析”が開発された。この細胞系譜解析は遺伝子工学を要するため、マウスにしか応用されていない。今回、2つの技術開発により、ヒトの組織幹細胞の細胞系譜解析に成功した。まず、体外で培養したヒト大腸細胞を用い、LGR5遺伝子発現細胞の子孫細胞を可視化するゲノム編集を行った。次に、マウスの大腸上皮を剥がし、ヒト大腸上皮細胞に入れ替える移植技術を確立した。これらの技術により、LGR5発現細胞の組織環境における長期間の自己複製と多様な上皮細胞分化の観察に成功した。面白いことに、増殖の速いマウス大腸幹細胞と異なり、ヒトの大腸幹細胞は遅い増殖を示した。大腸幹細胞は分裂とともに変異を蓄積することがわかっており、増殖スピードと大腸発癌との関連があるかもしれない。さらに、本技術により腸内環境でのヒト大腸幹細胞研究が可能となり、様々な研究への応用が期待される。
(内科学(消化器)76回 佐藤俊朗、88回 杉本真也)