今月のサイエンス

Circ Res.
2023 Oct 27;133(10):861-876. doi: 10.1161
Genki Ichihara, Yoshinori Katsumata, Yuki Sugiura, Yuta Matsuoka, Rae Maeda, Jin Endo, Atsushi Anzai, Kohsuke Shirakawa, Hidenori Moriyama, Hiroki Kitakata, Takahiro Hiraide, Shinichi Goto, Seien Ko, Yuji Iwasawa, Kazuhisa Sugai, Kyohei Daigo, Shinya Goto, Kazuki Sato, Ken-ichi Yamada, Makoto Suematsu, Masaki Ieda and Motoaki Sano

心筋梗塞は多くの人々の死因となっており、治療（再灌流療法）をしたとしても、心筋の壊死や心不全のリスクが高いことが知られています。特に、再灌流直後に発生する活性酸素種の発生が問題とされてきましたが、治療法の開発は難航していました。従来の研究手法では、虚血再灌流後の心筋組織を採取し、種々の代謝物質や蛋白を測定することで治療の標的となる分子を探索していました。この方法では、時間とともにダイナミックに変化する心筋の代謝状態を追跡することは不可能でした。そこで我々は、筒状の半透膜を心臓の壁に埋め込み、心筋間質の代謝物質を連続的に回収して測定する手法（マイクロダイアリシス法）を開発し、生きた疾患モデルマウスの心筋の虚血再灌流障害が段階的に進む過程を詳細に観察することに成功しました。心臓の虚血再灌流障害では、酸化脂質の蓄積およびフェロトーシスが虚血再灌流後の比較的遅いタイミング（再灌流後6時間以降）で始まり、その原因が虚血・再灌流時にグルタチオンという強力な還元物質が、主にMRP1（multidrug resistance protein 1）を介して細胞の外に漏れ出てしまうこと、MRP1の薬物的阻害で、心筋梗塞部位が縮小することを解明しました。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（スポーツ医学総合センター／循環器内科　勝俣良紀　84回）

Radiology.
2023 Sep;308(3):e230743. doi: 10.1148
Takehiro Nakahara , Yu Iwabuchi, Raita Miyazawa, Kai Tonda, Tohru Shiga, H. William Strauss, Charalambos Antoniades, Jagat Narula, Masahiro Jinzaki

SARS-CoV-2ワクチン接種後、心筋炎が起こり得ることはよく知られている。18 (18F) fluorodeoxyglucose (FDG) は糖代謝を観察できるPET薬剤で、主に腫瘍の評価に用いられるが、心筋炎においても集積が見られることが知られている。そこで、我々は、ワクチン接種後の無症候患者を対象として、心筋のFDG集積が一般的に上昇するのかを検討してみた。当院で2020年度の1年4か月の間にFDG PETを受けた700名のSARS-CoV-2ワクチン接種者と303名の非接種者を対象に後ろ向きの検討を行った。非接種者に比べ、接種者では心筋のFDG集積が有意に上昇しており、性別・年代・ｍRNAワクチンの種類に依らなかった。ワクチン接種後からの日数により層別化したところ、腋窩の集積上昇は120日まで、心筋のFDG集積は接種後180日まで有意に高い値を示した。心筋のFDG集積が炎症を見ているのか代謝亢進を見ているか定かではないが、SARS-CoV-2ワクチン接種により心筋のFDG集積が上昇することを示した。掲載誌は画像診断のトップジャーナルだが、publishからわずか2か月でこれまでの累積で最も閲覧された論文になり、この雑誌の編集委員会で“断トツのトップ”の閲覧数との評価を受け、HPに表示されている。
（放射線科学（診断）教授　陣崎雅弘　66回、特任講師　中原健裕　82相当、専任講師　岩渕　雄　86回）

Adv Sci (Weinh).
2023 Oct 17:e2301831. doi: 10.1002/advs.202301831
Yuta Kurashina, Keisuke Fukada, Shun Itai, Shuichi Akizuki, Ryo Sato, Akari Masuda, Hidenori Tani, Jun Fujita, Keiichi Fukuda, Shugo Tohyama, Hiroaki Onoe