IP3受容体の動作原理をX線結晶構造解析で解明
カルシウムイオン(Ca2+)は細胞の働きに大切です。特に細胞中のCa2+貯蔵庫(小胞体)からのCa2+放出を調節する栓であるIP3受容体が働きのキイとなっています。働く仕組みの解明が急務でした。2,217個のアミノ酸残基からなるIP3受容体の細胞質ドメインの巨大タンパク質をIP3存在下・非存在下で結晶化に成功。放射光施設(Spring8)でX線結晶構造解析を行いIP3受容体の動作原理の解明に成功(図参照)。①IP3が結合部位に結合し、②ヘリカルドメインの構造変化を起こし、③チャネルに近い領域にあるユニークな小葉型(リーフレット)構造が外側に動き、チャネルに構造変化を伝達し、④チャネル孔のαヘリックスが移動して孔(蛇口)が開き細胞質へCa2+が放出されます。クライオ電子顕微鏡での解析では「IP3結合部位とチャネルのC末端部位が直接結合してチャネル開口する」という主張でしたが、これを訂正しました。
IP3受容体は、小胞体ストレスやオートファジーそしてアポトーシスなどと関係し、脊髄小脳失調症などの脳変性疾患や認知症、外分泌障害などに関与しています。発見したリーフレット構造に作用する化合物を探索できれば、多くの疾患の治療・予防に役立つ新しい創薬ターゲットとして役立つと期待できます。
レセプターやチャネルでは通常は600アミノ酸残基の長さが結晶化の上限でしたが、2217アミノ酸残基の巨大なタンパク質の結晶化に成功しました。
レセプターやチャネルではこの巨大タンパク質の結晶化はworld recordです。御子柴研究室の低温室で結晶を作り、大型放射光施設(SPring-8)へ送り回折像を得て解析してその結果から、更に良い条件を探しました。構造の揺らぎを抑える為の変異をうまく入れることが出来たことが成功につながりました。良い条件を探す為の15年に亘る根気のいる研究でした。
シャーガス病の病原体であるトリパノソーマ原虫でもIP3受容体の配列を決定し、原虫の生存に必須であることを見つけました。全体の配列のホモロジーは低いにも関わらずリーフレット構造は高いホモロジーで保存されていました。生命現象に重要な意味を持ち、創薬のターゲットにもなると思います。
理化学研究所脳科学総合研究センター
発生神経生物研究チームシニアチームリーダー
御子柴克彦 48回