Curr Biol.
216 (8):2533-2550; 10.1083
Tsutsui-Kimura I, Natsubori A, Mori M, Kobayashi K, Drew MR, de Kerchove d'Exaerde A, Mimura M, Tanaka KF.
神経活動は電位変化として記録する。こう習ったし、脳波はまさに神経活動を捉えている。一方で、電気生理学的手法では、脳に何万と存在する神経サブタイプだけの活動を抽出することが出来ない。そこで、神経サブタイプの集合活動を細胞内カルシウム濃度の変化として抽出する挑戦が世界中で始まった。このアイデアの実現に必要なのがカルシウムセンサーと検出系の2つである。カルシウムセンサーとしては宮脇敦史博士(66回)が開発したカメレオンを用い、今回新たに光ファイバーを用いたカルシウム計測システムを構築した(図上)。これにより線条体の間接路と呼ばれる神経サブタイプの活動を部位ごとに調べることに世界で初めて成功した。活動計測と光操作(オプトジェネティクス)を組み合わせたところ、マウスが餌を獲得するという行動において、外側間接路サブタイプは「やる気」を担当し、内側間接路サブタイプは「移り気」を担当すること、やる気を成果につなげるには移り気を抑制しつづける必要があることなど、サブタイプごとに隠されていた機能を発見した(図下)。
(精神神経科 田中謙二 76回)
Nat Genet.
2017 Sep 25. doi: 10.1038
Nakayama RT, Pulice JL, Valencia AM, McBride MJ, McKenzie ZM, Gillespie MA, Ku WL, Teng M, Cui K, Williams RT, Cassel SH, Qing H, Widmer CJ, Demetri GD, Irizarry RA, Zhao K, Ranish JA, Kadoch C
本研究は、腫瘍抑制遺伝子SMARCB1(タンパク名:BAF47)の機能解析です。BAF47はATP依存性にクロマチンのリモデリングを行い、遺伝子発現を調節するhSWI/SNF(BAF)複合体の主要なサブユニットで、悪性ラブドイド腫瘍などいくつかの難治性悪性腫瘍でその不活化が報告されています。我々は、『BAF47が欠損した変異BAF複合体の機能異常が、SMARCB1欠損腫瘍のがん化に寄与している』と仮説を立て、『SMARCB1欠損悪性腫瘍細胞株に、BAF47を導入し、BAF複合体の構成と機能の変化を観察する』、という非常にシンプルな実験系を用いて、BAF47の機能解析を行いました。結果、BAF47の強制発現により、BAF複合体はより強固にクロマチンと結合し、広くエンハンサーを活性化すると同時に、分化を制御するBivalent promoterを活性化させ、ダイナミックに遺伝子発現を調節していることがわかりました。本研究の成果が、SMARCB1欠損悪性腫瘍のみならず、変異BAF複合体の関与する多くの難治性疾患の病態解明の一助になるものと期待しています。
(整形外科 中山ロバート 80回)
Genes Dev.
2017 Oct 11. doi: 10.1101
Yoshika Hayakawa-Yano, Satoshi Suyama, Masahiro Nogami,Masato Yugami, Ikuko Koya, Takako Furukawa, Li Zhou, Manabu Abe, Kenji Sakimura, Hirohide Takebayashi, Atsushi Nakanishi, Hideyuki Okano and Masato Yano
我々は、神経系の発生や疾患に関わるRNA結合蛋白質の機能解析を行ってきました。研究手法として、生きた細胞内における蛋白質-RNA相互作用をスナップショットする技術HITS-CLIP解析とトランスクリプトーム解析の統合的マルチオミクス解析に遺伝学的手法を駆使することで、生理学的機能を意義づけるRNAスイッチの同定やRNA代謝に伴う疾患の病態解明を目指しています。今回は、胎生期の大脳皮質において、神経幹細胞に限局して発現しているRNA結合蛋白質Qki5を見出し、マウス胎生期の脳におけるQki5の結合RNA部位をトランスクリプトームワイドに1塩基解像度で突き止め、3モードによる選択的スプライシング制御の法則性を明らかにしました。さらに、コンディショナル欠損マウスを用いてQki5が複数のRNAスイッチを介して胎生期神経幹細胞性の機能維持に関わるβ-カテニンシグナルを制御していることを発見しました。本研究戦略は、様々なRNA関連疾患の病態解明にも有用であり、幅広い精神・神経疾患や癌など新薬開発につながることが期待されます。
(岡野栄之 62回、矢野真人 78相当、早川-矢野佳芳)