── あらためて、慶應医学部のどんなところに魅力を感じますか。
岡野:慶應医学部は「基礎・臨床一体」を開設時から掲げていますが、まさにその理念通り、垣根が本当に低いです。基礎研究を新たな診断・治療法の開発につなげるTranslational Researchと、臨床現場での問題点や診断を基礎研究にフィードバックするReverse Translational Researchの両方が、こんなにもスムーズにできる大学は珍しいです。非常にいい環境だと思いますね。
中村:同感です。実際、岡野先生は基礎研究の立場から、僕は臨床側の立場から脊髄再生に取り組んできたわけですからね。僕らのタッグは、慶應医学部の精神を実践しているものでもありますよね。
岡野:それと面白いのは、例えばうちの生理学研究室には、整形外科のほかにも脳神経外科や神経内科など、いろいろな科から臨床の先生がやって来るんです。臨床同士のコミュニティができることで、病気への集団戦法が組めるといいますか、別の科の先生の考え方や検査の方法が役に立つことが結構あるんです。基礎・臨床の壁だけでなく、臨床同士の壁も低い。いい大学だと思いますよ。
── 医学を志す若い世代へ向けて、メッセージをお願いします。
岡野:誰もやっていない分野をサイエンスで切り拓きたい、そして、治療法のない病気に苦しむ人を救いたい。この2つが、私がこれまで研究を続けてこられた原動力だと思います。この先どんな時代になっても、新たな難病は必ず出てきます。がんや認知症を制圧しても、また次の病気が出てくるでしょう。その際、チャレンジング精神を持ち、人類の英知を尽くして治療法の開発に挑む科学者・医師であってほしいと願っています。
中村:医学部生や整形外科の若い先生たちに、僕がよく伝える3つの言葉があります。まず大切なのはPassionです。思いや夢と言ってもいい。そのパッションを持ってVisionを描くこと。 10年後どうなっていたいか。そのために5年後、3年後にどうありたいかを具体化してください。そしてそのビジョンを達成するために今何をするべきか、すなはちActionです。“Passion, Vision, Action”、これを本気でやっている人は、失敗しても言い訳しません。どん底まで落ちても必ずそこで何かを掴んで、より大きくなって這い上がってきます。
それから、「自分は大学時代にこれをやった」と胸を張っていえるものを見つけてほしい。勉強でも、部活でも、ほかのどんな活動でもいいんです。愚直に全力で打ち込む、本気でぶつかっていく。その姿勢は将来必ず報われると思います。若い学生さんは大きな夢を持って、慶應医学部に来てほしいですね。