「哺乳類のライフサイクルでは、リプログラミングという現象が2回起こります。リプログラミングとは、ヒストンやDNAのメチル化等で修飾されていたゲノムがすべて“チャラ”にされ、修飾が外れていわば裸にされることを言います。」
1回目のリプログラミングは初期胚で起こります。受精卵から2細胞、4細胞、8細胞と分裂していく辺りで、一度ゲノムは裸にされます。
「そこから一辺“チャラ”にしておいて発生が始まると、そのステージに特異的な修飾やゲノムの構造変化が促され、最終的にこういう私たちの体が出来上がります。そういうことを1回やっていて、もう1回は生殖細胞の形成の一番最初のときに、やはり一度、ゲノムを裸にするんです。そこから精子や卵子を形成していく過程で少しずつDNAのメチル基を入れたりヒストンの違う修飾を入れていって成熟な精子に特異的な構造がつくられたり、卵に特異的なクロマチンの構造が作られるということが行われています。」
というわけで、私たちのゲノムは2回裸にされます。このとき、今までいろいろな仕組みで押さえられていたトランスポゾンが強く発現してきます。
「これを私たちは『バースト』と呼んでいます。哺乳類のライフサイクルで、トランスポゾンのバーストが2回起きる。それで、つい最近まではそんな危険なことをなぜやっているのだろうと言われていました。トランスポゾンがバーンと発現していろいろな場所に新しい転移挿入が起きたら、ゲノムはぐじゃぐじゃになってしまうではないかと。」
しかし、不思議なことにバーストしても、転移はあまり起きないことがわかっています。
「バースト時、トランスポゾンは発現しても、転移はあまり起こっていないのです。どういう仕組みで、発現はしても転移しないようにしているのかというと、生殖細胞の場合は前述のPIWI piRNA経路がそれを行っていることが明らかになりました。しかし、初期胚においてはまだ明らかにされていません。それを私たちは理解したいと考えています。」
塩見教授らは、今その手がかりをつかんでいるといいます。
「あと数年で、きわめて重要な初期胚という時期に、トランスポゾンがバースト発現されても、それが転移しないようにする仕組みが解明できると考えています。」