これまで、マウスはヒトに近い哺乳動物として、遺伝子と生命現象の研究に盛んに用いられてきました。しかし、研究の進歩とともに、案外マウスはヒトと異なっていることがわかってきたと塩見教授は語ります。
「例えば、今世界で流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に、マウスは感染しません。ところがハムスターはヒトと同じように感染して、症状も出ます。小さなハムスターが、コホンと咳をしたりするようになるのです。」
このため、SARS-CoV-2の研究には現在ハムスターがたくさん使われているとのこと。さらにゴールデンハムスターとヒトでは、精子や卵子の形成過程で発現するPIWI遺伝子の種類や発現状況が類似していることも明らかになってきました。しかしゴールデンハムスターに似たマウスでは、ヒトとはまた異なることが知られています。
いったい、種の違いはどこから生じるのでしょうか。
「ヒトとチンパンジーの遺伝子でタンパク質のアミノ酸配列だけを比較して見ていくと、ほぼ同じであることが知られています。つまり私たちヒトもチンパンジーも、はてはマウスなど他の哺乳類も、ほぼ同じアミノ酸配列のタンパク質セットを使っている。それにもかかわらず、なぜヒトとチンパンジーやヒトとマウスはこんなにも違うのかといえば、それは、タンパク質が同じでも、いつどこでどの程度発現するかが異なっているためです。」
タンパク質がいつどこでどの程度発現するのか―。トランスポゾンとその残骸は、どうやらここに大きく貢献してきたということが解明されはじめ、種の分化に大いなる役割を担っている可能性が浮上しています。