2020/07/22
令和元年、慶應医学部に新しい「顔」が誕生しました。本学の医学部生が、国内外からの来賓に信濃町キャンパスを紹介するなど、学部を代表して活動を行うことを目的として結成された『慶應医学部スチューデント・アンバサダー(KSAM)』です。
KSAMは、すでに2019年慶應医学部賞受賞者インタビューをはじめ国内外の賓客対応の大役を経験し、今後も国際的な活動を積極的に行おうと力強く歩み始めた矢先に、コロナウイルス感染拡大の影響により、あらゆる活動の自粛が求められ、国際的な交流も制限される状況となってしまいました。
様々な困難な状況下でも、KSAMをはじめとする医学部生は、今できることに前向きに取り組んでいます。現在、コロナウイルス感染防止のため、病院内の臨床実習を行うことが制限されています。今後再開される時に備えて、正しく感染症について学ぶために、医学部生の有志と専門医師と作成した「医学生の感染予防指針」の作成にリーダーシップを発揮しました。
この指針は高く評価され、看護や薬学など医療を学ぶ学生に全体に向けて改訂されました。さらには、慶應義塾大学全塾協議会と協働し、全塾生向けに新型コロナウイルスの基本的な知識や感染対策を紹介する特設サイト「塾生 新型コロナウイルス対策のすゝめ」(学内限定公開)を立ち上げました。
それだけでなく、オンライン授業など、急速な変化が求められる新しい学習のあり方を、医学部生も必死で模索しています。
医療系学生の感染予防指針
https://medstudent.jp/wp-content/uploads/2020/05/infection-prevention-20200522.pdf
今回のFeaturesでは、まだコロナウイルス感染症が拡大する前に行われた、KSAMメンバー、KSAMの発案者である天谷雅行医学部長、KSAMの活動を指導する医学教育統轄センター長の門川俊明教授による座談会において話された、KSAM発足の経緯や活動内容をお伝えするととともに、コロナウイルス感染症拡大下の現在の声をお届けします。
亀苔昌平君(5年生)
吉橋沙耶香君(5年生)
佐藤正幸君(4年生)
田村明日香君(4年生)
天谷:慶應医学部には、単に医学にとどまらず、最近ではApple CEOのティム・クック氏をはじめ、あらゆる領域の著名人が世界中から多数訪れています。しかし、学生がこうした素晴らしい方々に直に出会える機会はこれまでほとんどありませんでした。また新しくなった病院棟をはじめ、ご訪問いただいた方に大学をきちんとご紹介する仕組みもあればと考えていました。
そこで、学生が主体的に活躍できる場を設けてはどうかと考えたことが始まりです。医学部を代表するアンバサダーとしてお客様を迎えてキャンパスを案内してもらい、人と人との生きた交流を経験する。この場所で学ぶ千載一遇のチャンスを、十二分に活用してもらいたいと思っています。
そもそも、大学はなぜ存在するのか――。大学というのは器のようなもので、実際に一人ひとりの学生が入学し、それぞれに学び、考え、成長していく場所です。教師は学生をサポートしますが、学びの主体はあくまで学生です。であれば、彼ら学生たちを主体とした団体があっていいのではないかと。外から来た方々に、個性あふれるかけがえのない慶應医学部生たちにface to faceで会っていただいて、医学部生の目線で、慶應の魅力を伝えて欲しいと思いました。
また、教員が教えるのではなくて、学生の中で醸成された素晴らしい文化が、脈々と続いていくことになります。そういった文化の継承や新しい出会いが生まれてほしいということが一番の願いでした。
門川:全国医学部が取得を目指している日本医学教育評価機構(JACME)の認証を慶應義塾大学医学部は2018年に取得していますが、その評価基準において、大学の一番のステークホルダーは学生であり、大きな方針を決める時に一ステークホルダーとして学生を交えて議論するということが非常に重要だとされています。例えば、カリキュラムを検討する委員会に学生が出席することです。先日も、学部長と学生が、1時間半ほどかなり熱く討論しました。スチューデント・アンバサダーもそういうチャンネルの1つにもなってほしいなと考えています。
吉橋:私たちスチューデント・アンバサダーはまだ発足したばかりの新しい組織ですが、これからさらに慶應医学部の魅力を学内外に広く発信していくことで、教員と学生、そして学内外の架け橋になっていきたいと思っています。
(2020年1月27日撮影)
門川:アンバサダーとして学部内を紹介するにはまず医学部をよく知る必要があります。発足したばかりでいきなりガイドするのは難しい状況でしたので、最初は私が必要な講義を行いました。
その過程で全体的に見ていて気づいたことは、実は、学生は大学のことをほとんど知らない、ということでした。つまり、大学が何を考えているのかを、実は学生に伝える場がほとんど存在していなかったのです。
スチューデント・アンバサダーは対外的な活動ではありますが、彼らが知りえたことを同じ学年の人にシェアしてもらい、大学はどのような方向に向かっているのかを伝えるような役目も担ってほしいと考えています。
天谷:その通りですね。私たちは私たちで教育環境や学生のカリキュラムを良くすべく一生懸命努力しているけれど、一つひとつの施策について、なぜそうしているのかということを具体的に伝える機会がなかなかありません。やはりスチューデント・アンバサダーという立場をもって自分たちの大学を知り、教員を知り、志を知る。そしてそれを他の学生たちに伝えていってもらえればと思います。そこには発見もあれば、学びもあると思います。
佐藤:OISTの方をアテンドする際、医学部長が最初に院内ツアーの模範を見せてくださいました。その時初めて病院の中で南側と北側の壁の色が違うことや、天井の間接照明が森の木漏れ日を意識してデザインされていることなどを知りました。いつも歩いている場所なのに、そうしたことを全然知らなかったのです。これには驚きました。
亀苔:病院のデザインや、内装にフォレスト(慶應の杜)のコンセプトがあることなど、みな最初は全然知らなかったですね。
天谷:新病院棟の全てのフロアは、テーマとなる木が1つずつ決まっています。とにかくワンフロアが広すぎて、どこに自分がいるのかわからなくてなってしまうので、北と南の色を変え、その後、何階にいるかわからなくなるので、フロアごとに木の種類を変えたのです。壁紙にはテーマの木と葉がデザインされています。汚れたとき壁紙の貼り換えは大変ですが、本当にいいものができたとは思っています。
門川:OISTの対応後の大きな活動として、2019年12月に慶應医学賞の授賞式がありました。慶應医学賞(Keio Medical Science Prize) は世界的にも有名な医学賞ですが、この2019年の受賞者であるユトレヒト大学医療センター分子遺伝学教授のハンス C. クレバース先生、大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授の岸本忠三先生のお二人のインタビューや受賞者のアテンドも今年からスチューデント・アンバサダーにお願いしました。
佐藤:慶應医学賞は、毎年、ノーベル賞クラスの研究者がノミネートされてきた権威ある医学賞。普段、学生は受賞者の講演を聴きに行くことはできますが、その受賞者たちと20分間も、研究のことや人生についても語りあえる時間がいただけて、本当に素晴らしい機会でした。
当日は現役アンバサダーの5人が2人と3人に分かれて担当し、慶應医学賞を受賞された先生方と20分ずつインタビューで濃密にお話しする機会をいただきました。
実際お会いしてみると、インターネットや本で調べた資料を読むのとは、インパクトが全然違いましたね。今までインタビュー記事は慶應医学部新聞の小さな紙面で読むくらいでしたので、直に自分の聞きたいことを伺えたのはとてもいい経験でした。
亀苔:まさに百聞は一見にしかずでした。クレバース博士が「自分のアイデアを内に秘めて論文を読み込むよりも、隠さずに多くのライバルと共有することでさらに新しいアイデアを得ている」と仰っていたことも意外な発見でした。
佐藤:多分、成功者にしか見えないですが、そんな方が失敗をした時にどう対処するのか、といったお話までしてくださり、伺っていて自信が湧いてくるのを感じました。
亀苔:まさに人生のターニングポイント。自分にとって計り知れない影響を受けたと思います。
天谷:実は失敗のない人なんていない、人生はほとんどが失敗です。要するに成功するまでやり続ける人、そういう人たちが慶應医学賞を受賞しているわけです。
失敗したことなど論文にも書かないし、本人とのごく近しい会話でしか出て来ません。成功の裏に積み重なった無数の失敗を感じてくれたらすごくありがたいし、それを発信していく――自分たちが感じたことをそこだけで終わらせずきちんと発信していくことがとても大事です。
田村:先生がおっしゃるように受賞者の先生方と直接お話しできたことはとても貴重な経験になりました。慶應医学賞については私たち自身でインタビュー記事を書いておりまして、2月号の慶應医学部新聞に掲載されました。今までそういったことに携わる機会がほとんどなかったので、それも含めて全てが得難い経験でした。
(2019年12月19日撮影)
ここまでは、コロナウイルス感染症が世界的に拡大する前の座談会でのお話しです。
2020年はオリンピック・パラリンピックが日本で開催され、慶應義塾大学病院も開院100年を祝う華々しい年となるはずでした。しかし、コロナウイルス感染症は瞬く間に世界中に広がり、たった数か月の間に、世の中の状況はすっかり変ってしまいました。国際的な往来は制限され、国際交流どころか、友達との食事会も開催できない状況となり、人と人とのコミュニケーションのあり方が劇的に変わってしまいました。そのような中でも、医学部は、前を向いて、新たな活動形態を考えながら行動していく必要があります。KSAMは、しばらくの間、海外からのお客様を直接お迎えする機会はないかもしれませんが、自分たちに与えられた使命を考え、新しい形で活動を続けていきます。
最後にKSAMのメンバーからの今後にむけてのコメントを皆様にお伝えします。
新型コロナウイルス感染症をきっかけとして世の中は日々刻々と移ろっています。しかしそんな今だからこそ、KSAMにできることがあるのではないか。慶應医学部の魅力を、人と人とのつながりを、学内外に発信する。そんな掛け橋となれるよう挑戦心を持って努力してまいります。
慶應義塾大学医学部スチューデント・アンバサダー(KSAM)一同
KSAMの今後の活躍を是非ご期待ください。
(2020年1月27日撮影)