慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Keystone Symposia (Stem cells, cancer and metastasis)

氏名

谷口 智憲
GCOE PD
先端医科学研究所細胞情報研究部門

詳細

GCOE Young Researcher Support Plan(2010年度)
参加日:2011年3月6日~2011年3月11日

活動レポート

私たちはGCOEプログラムの中で、癌幹細胞、癌間質細胞(間葉系幹細胞、線維芽細胞)の免疫学的性質について研究していましたので、今回、GCOE Young Researcher Support Planの援助を受けKeystone Symposia (Stem cells, cancer and metastasis)に参加して参りました。以下に学会の内容の中で、幾つか興味深かった発表を中心に報告いたします。

今回のシンポジウムでは癌幹細胞関連の発表を5日間にも渡り集中的に聞くことができ非常に内容の濃いものでした。初日はR.Weinbergによるオープニングキーノートレクチャーで始まりました。乳がんにおける上皮間葉転換(EMT)と癌幹細胞の関係についての講演でした。乳がん細胞にsnailなどを発現させEMTを起こすとCD44highCD24lowの癌幹細胞分画が増える事などから、両者の分画は一致していることが示されました。また、EMT/cancer stem状態の誘導/維持に必要な要素として、TGF-βシグナル(Gremlin, TGF-β)、Wntシグナル(canonical(DKK, SFRP1), non-canonical(Wnt5a)経路)があげられました。実際にshSFRP1, a-DKK1-Ab, TGF-β, Wnt5a, a-E-cadherin-AbのカクテルでEMTの誘導/維持が出来たことが示されました。癌のEMT, 転移に癌幹細胞が深く関与していることを示す発表でした。S.Ramaswamyの発表は、増殖能力の高い癌細胞の一部は非対称分裂を行い、増殖能力の低い娘細胞(G0-like cell)を作り出すことがあるというものでした。主に乳がん細胞を使って行った解析でしたが、細胞株だけでなく、組織でも認められました。G0-like細胞は、薬剤や放射線などの治療に抵抗性であり、Aktのたん白量が低下することでAktシグナル活性が減弱しており、更にRoslow/HES1high/MCM2low/Hek9me2lowと言う特徴を持っていました。これらの細胞は再び増殖能の高い細胞になることも出来ます。癌幹細胞とは幾つかの点で異なる特徴を持っていますが、癌細胞が可塑的にGo期を行き来できることを示す興味深い発表でした。M.Wichaは癌幹細胞を標的とした治療法の可能性について興味深い発表をしました。癌幹細胞で低発現であるmiR93の導入で治療効果が見られること、バルクではHER2陰性の乳がんでも幹細胞には発現していてHerceptin(抗HER2抗体)で癌幹細胞を標的と出来ること、HER2シグナルと関連のあるNotchシグナルも標的と出来、実際その阻害薬であるGSIで効果が見られること、IL8/CXCR1のシグナルもself-renewalに重要でその阻害薬Repertaxinが治療薬として使える可能性などが発表されました。一部は臨床試験まで行われており今後の結果が楽しみです。Infinity Pharmaecuticals Inc, 及びGenentech Incの二社からはHedgehog阻害薬の開発の発表がありました。この2社は各々IPI926、GDC-0449というHedgehogの阻害薬を開発し、これらのシグナルが癌で活性化しており直接その悪性形質に関与しているBasal cell carcinoma(BCC)およびMedulloblastomaで臨床試験が始められています。またこのシグナルは癌幹細胞での活性化も一部の癌で示されており、癌幹細胞を標的と出来る薬剤としても期待され、肺癌、卵巣癌、前立腺がんのマウスモデルではその効果が示されていました。更には、これらのシグナルは癌間質の線維芽細胞でも活性化が知られており、間質をターゲットとした治療法にも応用できる可能性がありました。私は癌間質の癌免疫学応答を研究しており、これは興味深い発表でした。S.Morrisonの発表は癌幹細胞のこれまでの実験評価系に問題を提起する興味深いものでした。これまでの癌幹細胞の定義としてマウスに移植した際の造腫瘍性の高さがそのひとつとしてありましたが、これは用いる実験系に大きく依存します。悪性黒色腫ではこれまで100万個に一つぐらいの割合で幹細胞が存在すると考えられてきましたが、その確立は、観察期間の延長、NSGマウスなど高度免疫不全マウスの使用、マトリゲルなどの使用により大きく変動し、究極にはバルクの悪性黒色腫を1細胞だけ移植しても30%の確率で癌を形成させることができます。すなわち、このモデルでは約1/3が幹細胞ということになってしまいます。そして悪性黒色腫の中で表面マーカー85個中ヘテロジェネイティーを認めた22のマーカーにつき、その陽性細胞群、陰性細胞群それぞれについて造腫瘍性を検討したところ全く差がありませんでした。これらを含め様々な実験結果より、悪性黒色腫では一つ一つの細胞が非常に造腫瘍性が高く、これまでの癌幹細胞のモデルは当てはまらないという結論でした。但し、患者によってsingle cellでマウスに移植した際の転移能の差が見られ、それが患者の予後に相関しそうだと言う興味深い知見も見られました。未だ、解析患者数が少なく統計学的有意差は見られませんが、これまでの高造腫瘍性、非対称分裂などでは定義できなくとも、やはり悪性度の高い癌幹細胞様の細胞がありそれが予後にも影響しそうだと言う結果でした。

ポスターでは癌細胞と免疫細胞のFusionを扱った発表があり、今まさに私の実験結果と一致する部分もあり、お互いにDiscussionできました。今回のシンポジウム全体的に見ると乳がんなどを中心として、幹細胞のヒエラルキーの解析が進んでる分野では、癌幹細胞の解析も進んでおり治療などのモデルまで発表にあります。ただ、癌幹細胞の免疫学的性質に言及している発表は皆無であり、私たちが研究していく価値が有ると感じました。今回情報として多くを収集できたことなどから、比較的癌幹細胞としての解析が進んでいる乳がんなども用いて、今後我々独自の方法でその免疫学的性質を解明していきたいと思います。帰国前日の夜、今回の東日本大震災が発生し、現地でもいち早くニュースで情報が流れ大変驚きました。一時は帰国のフライトが危ぶまれましたが、羽田便だったこともあり、なんとか4時間遅れで無事帰国することが出来ました。我々のラボは幸いにも被害は最小限で済みましたので、早々に実験を再開したいと思います。

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