慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Keystone Symposia (Stem cells, cancer and metastasis)

氏名

西尾 浩
GCOE RA
産婦人科学

詳細

GCOE Young Researcher Support Plan(2010年度)
参加日:2011年3月6日~2011年3月11日

活動レポート

この度、GCOE Young Researcher Support Planの援助のもと、伝統あるKeystone Symposia (Stem cells, cancer and metastasis)に参加させていただきました。学会の雰囲気、またこの分野での最新の研究内容についてご報告させて頂きます。

まず学会の開催されたKeystoneは、ロッキー山脈の連なるコロラド州のDenverから車で約2時間のスキーリゾート地であり、この地で毎年開催されるKeystone Symposiaは1週間毎に変わる生命科学の様々なテーマをもとに各国から研究者が集い最新の研究内容が発表またdiscussionされる非常にexcitingな学会です。我々の参加した一週間のスケジュールは朝8時からお昼までlecture、その後夕方までは自由時間で、夜は20時頃まで口頭とポスターのプレゼンテーションがあるというスケジュールでした。会場はメインのホールが一つとポスター会場が一つで、通常の学会と比較して参加者同士の距離感は非常に近い印象でした。癌幹細胞のリーダー的な研究者から私のような若手の大学院生まで幅広い年齢層の研究者が参加していました。

以下、学会内容に関して、印象に残った講演を記したいと思います。初日のKeynote lectureはRobert Weinberg氏による乳がんにおける上皮間葉転換(EMT)と癌幹細胞の関係についてでした。昨年、大阪で開かれた癌学会でも講演を拝聴致しましたが、乳がん細胞においてはEMTを起こす細胞が癌幹細胞である可能性、また、その特性を裏付けるメインのシグナル伝達経路についての発表でした。御高齢で「高地で発表は疲れる」とおっしゃりながらも、2度にわたる熱のこもった講演は何度聴いても興味をかきたてられる内容でした。さらに癌細胞がEMTを起こし、転移浸潤し他臓器に至る過程で、血液中のcirculating cellを捉える研究も精力的になされており、実際の臨床の現場で治療にいかに役立てるかという問題はありますが、様々な癌腫で応用される日も近いと感じました。最終日にKeynote lectureを行ったSean Morrison氏の発表はこれまでの癌幹細胞の概念を覆す内容でした。彼らはこれまでの癌幹細胞の特性のひとつである、癌幹細胞の高い造腫瘍性に関して、この特性が用いる実験系・癌腫に大きく依存すること、悪性黒色腫を1細胞だけマウスに移植しても30%の確率で癌を形成させることが可能であることから悪性黒色腫においては、これまでの癌幹細胞のモデルは当てはまらないと結論付けていました。血液腫瘍や乳がん以外の癌腫において、これまでの癌幹細胞のモデルが当てはまるのか、私個人としてはすべての生命のもとになる卵巣から発生した卵巣癌においてやはり癌幹細胞は存在するのか、今後も研究を進めていきたいと思います。

大学時代の同級生の谷口君と一緒にこの学会に参加し、午後の自由時間は広いゲレンデで過ごすゆとりもあり、充実した学会を過ごすことができたことを最終日の夜に振り返っていた矢先に、インターネットとテレビを通じて東日本大震災の様子が流れてきました。家族とも十分に連絡が取れず、帰りの飛行機はキャンセルにはならなかったものの、4時間の遅れで始発電車の動き始める前の時刻に到着しました。無事に帰国できたことに安堵すると同時に凄まじい震災の様子が徐々に判明してきて、いつこのような災害が自分の身に降りかかってくるかわからない人生において後悔の無い様、今後も科学と真摯に向き合う学究の徒でありたいと強く感じました。

最後になりましたが、このような貴重な機会を与えて頂いたGCOE関係者の方々に感謝いたします。

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