慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
English

ホーム > Young Researchers' Trip report > 33rd Annual San Antonio Breast Cancer Symposium

33rd Annual San Antonio Breast Cancer Symposium

氏名

関 大仁
GCOE RA
外科学(一般・消化器外科)

詳細

GCOE Young Researcher Support Plan(2010年度)
参加日:2010年12月6日~2010年12月10日

活動レポート

この度、グローバルCOEの御支援により国際学会で研究発表をさせて頂きましたので御報告させて頂きたいと思います。
San Antonio Breast Cancer Symposium(以下、SABC)は毎年、アメリカのテキサス州にあるSan Antonioという小さな町で開催される国際的な乳癌学会です。
San Antonioはテキサス州の中心南よりに位置し、人口約133万人を有する全米第8位の長期滞在型観光都市であり多くの観光客が訪れます。市内中心部を流れるサンアントニオ川両岸には、熱帯性の植物に囲まれた「リバーウォーク」という遊歩道が整備され、お洒落なカフェテリアやレストランが建ち並び、川の中を小さな遊覧船が走っています。12月は丁度、クリスマスシーズンのため、町中がライトアップされており、欧米風のロマンチックな夜の町並みを散策することができます。歴史的には1720年前後にスペインの宣教師が入植し、現在史跡として保存されているアラモの砦のある場所に伝道教会を設立したことがSan Antonioの始まりと言われています。その後、San Antonioはメキシコ軍との戦場の舞台となりましたが、1846年にテキサスが28番目の州としてアメリカ合衆国に加盟したことにきっかけにアメリカからの移住が増加したことで都市としての発展を遂げてきました。

日本から直行便はなく、アメリカ内で一旦乗り継ぎをしなければならないので移動にはほぼ丸一日かかります。私は学会開催日の夜に到着しましたので2日目から参加しましたが、朝一番のセッションは7時から始まるため、夜明けの薄暗いうちにはホテルを出発していました。ほとんどのホテルから会場までシャトルバスが走っていましたが、私の滞在したホテルは会場まで徒歩10分程度だったので、毎朝散歩がてら歩いて会場に向かいました。ホテルは中級クラスのものでしたが、部屋はとても広々としており、リビング、ダイニングキッチンの他、寝室にはダブルベッドが2つあり、さらに、大型液晶テレビが各部屋に設置されていて、1人で滞在するにははっきり言って無駄に感じるほどの大きさでした。また、朝食も付いており、インターネットも無料で使用できたのでとても快適に過ごすことができました。

SABCは乳癌領域では国際的にも評価が高く、毎年、乳癌治療における大規模臨床試験の最新結果や基礎研究が報告されており、世界中から演題がよせられるため、poster sessionであっても比較的採択の閾が高いと言われています。Oral sessionはメインホールで主に大規模臨床試験の結果が報告されており、Poster Sessionでは臨床試験の他、様々な基礎研究が発表されており、活発な質疑応答が行われていました。滞在中は毎日朝から晩まで学会にいて上司と夕食を済ませた後、ホテルに帰って寝るだけの生活でした。観光といったら学会場から徒歩圏内のアラモ砦くらいでしたが、学会自体が毎日刺激に満ち溢れていたのでとても充実していました。また、会場には日本各地のがんセンターや他大学の御高名な先生方もいらしており、直接お話を伺うことが出来たことも大変良い刺激になりました。
現在私は、「乳癌伸展におけるEithelial to Mesenchymal Transition(EMT)による腫瘍微小環境の変化」 をテーマとして研究活動に携わっております。今回の学会では「乳癌における新たな予後因子としてのHOXB9遺伝子発現」をテーマに発表を行いました。もともとHOX遺伝子群は胎生期における器官形成時の分化に重要な役割を果たしておりますが、近年腫瘍の発生・進展に深く関わっていることが報告されています(Abate-Shen et al, Nat Rev Cancer, 2002)。我々の研究グループでは既に乳癌細胞株を用いた研究でHOXB9遺伝子の高発現と腫瘍形成や肺転移、およびEMTとの関連性を検証しております。本学会では免疫組織化学染色による同遺伝と乳癌の臨床的予後の関連性を発表しました。浸潤性乳管癌のうちHOXB9陽性は48.9%を占め、腫瘍径の大きい症例、ホルモン受容体陰性、HER2陰性、腋窩リンパ節転移陽性、および高核異型度の割合が有意に多く認められました。さらに、Kaplan-Mayer法を用いて臨床的予後を検討した結果、HOXB9 陽性群は有意に予後不良であり、多変量解析ではHOXB9陽性はDisease-Free survivalにおける独立した予後不良因子でした。このように、EMT inducerとしての性質を有するHOXB9遺伝子は乳癌における新たな予後因子としての可能性が示唆されます。

最後になりますが、本学会を通じて非常に多くの経験をさせて頂きました。今回学んだことを糧にさらなる研究を積み重ねて、今後も積極的に国際学会に参加することで、世界中の研究者たちと意見を交わし、自分を高めていきたいと思います。この場をお借りしてこのような大変貴重な機会を与えて下さいました岡野 栄之教授をはじめグローバルCOEの活動に従事されている先生方および研究支援センターの方々や研究指導をして下さった一般・消化器外科の北川 雄光教授、神野 浩光講師、林田 哲先生に厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。

Copyright © Keio University. All rights reserved.