これまで、薬物相互作用や有害反応の個人差とそれをもたらす要因・機構について、おもに薬物動態学の観点から研究を行ってきた。また、相互作用や有害反応につながる医薬品の不適正使用防止のための、医薬品安全にかかる研究も併せて行なってきた。
1. 薬物代謝酵素の阻害による相互作用の個人差
薬物酸化代謝酵素 cytochrome P450 (CYP) の分子種、CYP2C9, 2C19, 2D6, 3A4 などの遺伝子変異は、活性変動をもたらすだけではなく、各種阻害剤に対する感受性 (阻害様式、阻害強度) に大きな差異をもたらすことを in vitro での実験により定量的に明らかにした。続いて得られた結果をもとに、それらの遺伝子差異が、薬物治療上、薬物相互作用にどの程度の個人差をもたらすか、意図的な相互作用 (boost) が薬物動態の個人間変動係数を縮小しうるか、を明らかにするために、モデル解析や in silico simulation を実施し、臨床に適用可能な医薬品情報を創製してきた。
2. 消化管吸収過程で生じる相互作用の個人差
消化管に発現する取込みトランスポーター organic anion transporting polypeptide (OATP) 1A2 および OATP2B1 に関して、飲食物成分による薬物相互作用のリスクを解明するとともに、それらの遺伝子的変異型間で阻害剤に対する感受性に差があることを定量的に示し、薬物相互作用の個人差要因となりうることを立証してきた。また、消化管内での物理的吸着や錯体形成によって生じる相互作用に個人差をもたらす要因として、投与間隔に着目しその影響を予測するためのモデルを構築した。食事の影響にも着目し、食事の有無やその種類が相互作用の変動要因となりうることを立証した。さらに、吸収過程で生じる新たな相互作用機構として、薬物による消化管障害が他の薬物の消化管吸収を変動させる可能性を提唱し、小動物などを用いてこれを立証するとともに、その分子的機構を解明した。
3. 飲料と薬物の相互作用にかかる機構の解明
各種果汁飲料から、CYP 分子種や OATP 分子種を阻害する成分を単離同定した。例えば、OATP 阻害成分として、グレープフルーツからナリルチン、クランベリーからアビクラリンなどの単利同定に成功した。さらに、それらを含めた各種阻害剤の阻害強度及び阻害機構について、リコンビナント酵素や OATP 発現細胞などを用いて定量的に解析を行った。
4. 医薬品の適正使用や医薬品安全にかかる医薬品情報学研究
消費者間での医薬品の授受は、健康被害や医療を受ける機会の逸失につながる。特に、インターネットオークションを介した医薬品等の譲渡については、十分な啓蒙が行われてこなかった。そこで、インターネットオークションにおける医薬品の違法出品状況とその要因を調査するとともに、その危険性について広く啓蒙してきた。また、インターネットオークションにおける未許可未承認医薬品の販売 (効能効果を謳って健康食品等を出品する行為) についても、同様の調査を行い、その危険性について社会に広く啓蒙してきた。その結果、これらの問題点は、一般新聞、業界誌、インターネットメディアなどで広く紹介され、社会に認知されるに至った。