脳神経外科疾患に対する遺伝子細胞療法の橋渡し研究
脳神経外科疾患において、従来の治療では治療困難な疾患・病態に対する新たな治療法の開発を目的として、遺伝子細胞治療の橋渡し研究(translational research)を行っています。
悪性神経膠腫は、最も治療困難な悪性腫瘍の一つで、その背景として、グリオーマ幹細胞(glioma stem cell: GSC)の高い造腫瘍能・浸潤性が挙げられます。ヒトiPS細胞由来神経幹細胞(Neural stem cell: NSC)がGSCに対して遊走能・指向性を有することに着目して、自殺遺伝子(CD-UPRT)をゲノム編集により遺伝子挿入したiPS細胞を作製し、分化誘導した治療用NSCを用いた自殺遺伝子療法を開発しました(図2)。Cytosine deaminase (CD)は抗真菌剤5-FCを抗腫瘍剤5-flurocytosune(5-FU)に変換する酵素で、bystander効果により、近傍のGSCに対して選択的に細胞死を誘導します。動物モデルにおける有効性を証明し、現在、世界初の臨床試験の準備を進めています。
脳神経外傷や脳血管疾患の後遺症による脳機能障害は、生活の質に大きな影響を与えますが、現在なお有効な治療法がありません。NSCを用いた神経再生治療は、以前より注目されていましたが、細胞の供給と腫瘍化リスクの問題を抱えていました。そこで、我々は自殺遺伝子が組み込まれたiPS細胞からNSCを誘導することにより、腫瘍化リスクを回避し、安定供給可能な技術を開発しました。脳挫傷動物モデルにおいて、移植NSC由来の神経細胞の生着と運動機能の改善効果を証明し(図3)、一方、自殺遺伝子を作動させることにより、未分化状態で残存したNSCを死滅させ、周囲正常組織に明らかな影響がないことを明らかにしました。脳神経外傷や脳血管疾患に対する安全な再生医療の実現のため、詳細な治療機序と安全性の解析を進めています。