形成外科的手技を駆使し、どのように傷を丁寧に縫合しても、傷を跡形なく治すことはできない。ところが、哺乳類でも胎生期のある発生段階までは、皮膚に傷をつけても完全に再生する。この現象の鍵になる要素を見つけることができれば、皮膚の完全な再生が見出せる。本研究室では独自に開発した胎仔手術法を基に、マウス胎仔の皮膚に創傷を作成し創傷治癒を観察することで、創傷部に皮膚付属器を含めて完全に皮膚が再生する時期から、成獣と同様に瘢痕を残す時期に切り替わる時期を発見した。この切り替わりの前後の創傷治癒過程を分子生物学的、細胞生物学的に比較・検討することで、皮膚の再生のメカニズムに迫る研究を行っている。
さらに胎仔皮膚再生モデルから得られたさまざまなアイディアを基に、様々な成体幹細胞を用いたり、細胞の培養方法を工夫することで、毛包を含めた皮膚付属器を再生させる方法に取り組んでいる。動物モデルでは、成獣で皮膚や付属器を再生させることに成功している。
また、ケロイド・肥厚性瘢痕のメカニズムは明らかになっていないが、本研究室ではこれまで詳細に研究されていなかった、ケロイド周辺の炎症細胞の動態という観点から、ケロイド・肥厚性瘢痕の本質に迫る研究を行っている。
巨大色素性母斑は治療に難渋するが、病理組織や色素細胞の動態から、母斑細胞が真皮の中に存在するメカニズムの研究も行っている。
形成外科では、皮膚、脂肪、血管、筋肉、骨、軟骨など、様々な欠損に合わせて再建材料が必要になる。これまで本研究室では皮膚以外に様々な細胞を培養し、それらを移植することで、血管新生、脂肪、骨格筋、骨などの再生の研究を行っている。
一方で、新鮮屍体を用いたマクロの解剖を基に、解剖学教室との共同研究で、骨格筋肉内の3次元的血管解剖を元に、筋皮弁として再建に用いる筋肉の一部を使用することで、侵襲の少ない皮弁の挙上が可能であること明らかにしている。また、皮下組織の血管構築の研究から、皮弁は皮静脈を中心にデザインすれば安全に挙上することができるという、臨床に直結した画期的な皮弁の開発を行っている。
さらに、生体が物理的な力によりどのように応力が加わり形態が変化するかをシミュレーションすることで、術後の予測を行い、手術の計画を行う研究も行っている。