1.膜技術を用いた新規物質分離方法の開発
物質の分離・精製において、高いエネルギー効率を実現する膜分離技術を複合的に利用する研究を行っている。現在、乳由来タンパク質の分離・精製および放射性廃水処理に関して基礎研究および実用化研究を行っている。前者では、牛乳から高機能性タンパク質であるラクトフェリンを分離し、その後、結合鉄を剥離し、アポ化する技術(特許取得済)の開発に成功し、ニュージーランドにおいてアポラクトフェリン(写真1)の製造を行ない、世界的に販売している。また、更には当該技術の応用として、焼酎残渣から機能成分を膜を用いて抽出する技術を確立し、本技術で作られた機能成分が国内で販売されている。
2.アプタマーによる分子認識
近年、医療分野における加齢黄斑症治療薬などの実用化によって注目を集めている構造特異的結合ツールである一本鎖核酸(アプタマー)を用いて、生体分子等を認識するシステムの研究を行っている。更に、当該アプタマーの化学的安定修飾を施すことにより、当該アプタマーを用いた電気化学的定量法、免疫学的定量法、あるいは医療用医薬品としての開発研究を学内外の研究者と共同で行っている。本研究の過程において開発された技術を用いて、糖尿病性血管合併症等の原因として注目を集めている終末糖化産物(Advanced Glycation End-products; AGEs)、特にその中でも毒性の強いGlyceraldehyde由来AGEの血中濃度測定キット(写真2)が誕生し、現在、市販されている。
3.小中高校生への科学教育
高い意欲と能力を有する小中高校生を核として、広範な子どもたちに基礎的科学知識の普及と最先端科学の紹介を行うことで、国民の科学的リテラシーを醸成すると共に、利益相反科学技術を科学的に議論する力を養うための教育活動を1998年より実施している(写真3)。2011年までに当該教育を受講した子どもたちは3200名を超え、インドなどの海外でも活動している。2009-2011年度は慶應義塾大学未来の科学者養成講座「はばたけ、世界を先導する医学者へ」の実施責任者として当該教育活動を深耕させている。