慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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吉村昭彦

吉村昭彦 (よしむらあきひこ)

吉村昭彦 (よしむらあきひこ)

慶應義塾大学大学院医学研究科 微生物学・免疫学 教授
Akihiko Yoshimura, PhD
yoshimura@a6.keio.jp
http://www.immunoreg.jp/

GCOE研究テーマ(役割分担)と研究計画

免疫担当細胞の正負のバランスの破綻は免疫疾患の原因となる。免疫系は自己成分のみならず食物など一部外来抗原に対して応答が抑制される免疫寛容機構を持つ。その分子機構は複数存在するが、なかでも負の応答を担うTreg(Foxp3陽性抑制性T細胞)やTr1(IL-10産生抑制性T細胞)の重要性が注目されている。一旦成熟したエフェクター細胞(Th1、Th2、Th17)はもはや分化の方向性は転換できず、またTregによる抑制に対して抵抗性を獲得するとされているが、これらを再びナイーブT細胞に近い状態にリセットする、あるいはさらにTregに再分化できれば画期的な治療法につながる。我々はこのGCOEにおいて、正負の細胞分化を決定する細胞内シグナルと転写制御機構を、分子レベルと個体レベルで詳細に検討し、「ヘルパーT細胞を免疫活性化型から免疫抑制型に転換する」という免疫疾患のあらたな治療法開発をめざす。

これまでの研究成果

サイトカインはJAK/STATl経路とRas/ERK経路を用いて細胞内へシグナルを伝達する。我々は免疫反応や炎症反応を終息させ恒常性を保つのに必要な負のシグナル制御機構の解明に取り組み、シグナル停止に関わる重要な遺伝子として、1997年にCIS/SOCSファミリーを、2001年にSpred/Sproutyファミリーを発見した。さらにこれらの分子の抑制の分子機構の解明とその破綻による病理や疾患との関係を明らかにした。またSpredやSproutyは好酸球の産生調節、神経やリンパ管の適切な分枝やネットワーク形成に必要であることも明らかにした。さらに2007年にSpred-1がヒト神経繊維腫症の原因遺伝子のひとつであることを突き止めた。

Fig.1 SOCSファミリーの構造(A)と抑制の分子機構(B)。
(A) 現在8種類のファミリーが存在するがサイトカインに特異性が高いのは CIS, SOCS1, SOCS2, SOCS3である。このファミリーではSH2ドメインとC末端のSOCS-boxが保存されている。(B) CIS (cytokine-inducible SH2 protein)はEPO,IL-2,IL-3などよって活性化されたSTAT5によって転写誘導され、SH2ドメインを介してチロシンりん酸化されたIL3受容体やEPO受容体と結合し、STAT5の会合を阻害する。SOCS3は受容体に会合してJAKのキナーゼ活性を抑制する。SOCS1とSOCS3はJAKのキナーゼ活性を抑制する阻害ペプチド(KIR)をもつ。

Fig.2 免疫リプログラミング
ヘルパーT細胞は免疫の司令塔と言われ、正のエフェクターT細胞と負の抑制性T細胞に分化し、免疫応答のバランスを決定する。その制御破綻がアレルギーや自己免疫疾患に直結する。我々はT細胞分化の方向性を決定するSOCS遺伝子群を発見した。本研究においてさらにT細胞分化を維持する分子機構を解明し、エフェクターを抑制型T細胞へ転換する、すなわち正を負にリプログラムする方法論の開発と免疫疾患治療への応用を目指す。

代表論文

  1. Brems H, Chmara M, Sahbatou, Denayer, Taniguchi K, Kato R, Somers R, Messiaen L, De Schepper S, Fryns JP, Cools J, Marynen P, Thomas G, Yoshimura A, Legius E. Germline loss-of-function mutations in SPRED1 cause a NF1-like phenotype. Nature Genetics 39 :1120-6, (2007)
  2. Mori H, Hanada R, Hanada T, Aki D, Mashima R, Nishinakamura H, Torisu T, Chien K.R, Yasukawa H, and Yoshimura A.: SOCS3 deficiency in the brain elevates leptin sensitivity and confers resistance to diet-induced obesity. Nature Med. 10: 739-743 (2004).
  3. Yasukawa H, Ohishi M, Mori H, Murakami M, Chinen T, Aki D, Hanada T, Takeda K, Akira S, Hoshijima M, Hirano T, Chien K.R, and Yoshimura A.: IL-6 induces an anti-inflammatory response in the absence of SOCS3 in macrophages. Nature Immunol. 4: 551-556 (2003).
  4. Wakioka T, Sasaki A, Kato R, Shouda T, Matsumoto A, Miyoshi K, Tsuneoka M, Komiya S, Baron R, and Yoshimura A.: Spred, a Sprouty-related suppressor of Ras signaling. Nature 412: 647-651 (2001).
  5. Endo T.A, Masuhara M, Yokouchi M, Suzuki R, Sakamoto H, Mitsui K, Matsumoto A, Tanimura S, Ohtsubo M, Misawa H, Miyazaki T, Leonor N, Taniguchi T, Fujita T, Kanekura Y, Komiya S and Yoshimura A.: A new protein containing an SH2 domain that inhibits JAK kinases. Nature 387: 921-924 (1997).

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