難治性心不全は心臓移植以外に治療手段がなく、再生医療等の代替療法の開発が急務である。従来のiPS細胞樹立法の問題点は、皮膚バイオプシーが必要、樹立に時間が掛かる、ゲノムに挿入遺伝子が残存し、再活性化して腫瘍形成する可能性が有る等が挙げられていた。我々は末梢血Tリンパ球とセンダイウイルスを用いることにより、わずか1滴の血液から1ヶ月でゲノム遺伝子を損傷せずにiPS細胞を樹立する方法を開発した。この方法で樹立したiPS細胞はin vitroで心筋を含む3胚葉系に分化すること、15継代程度で残存ウイルスは完全に消滅すること、ゲノム染色体形に異常のないこと、多分化能を有することを証明した。また、我々はマウス胎児胚の心臓予定領域に発現する液性因子をスクリーニングし、いくつかの心筋細胞分化過程に重要な働きを有する因子を同定した。これらの因子のうち、(1)未分化幹細胞から前方中胚葉への誘導する過程にNoggin、(2)早期心筋細胞の細胞分裂を誘導する因子としてG-CSFが有用であることを見出した。これらの方法により、ヒトのES細胞・iPS細胞は効率的に心筋細胞へ分化誘導可能であった。さらに、ミトコンドリア特異的蛍光色素を利用して心筋細胞と混在する残存幹細胞・非心筋細胞の分離法、細胞シート作成法、再生心筋細胞の効率的移植法を開発した。